The Focal Distance

若さとはこんな淋しい春なのか

面白かった本(2016)

今年は前半はあまり本を読まなくて、後半(文化祭終了後)はそれなりに読んだ。
順番は特に面白かった順とかではないです。

 

吉本ばなな「TUGUMI」

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

 

夏の伊豆が舞台の小説。夏の空気がよく出ている。ちょうど夏に買って、国立のスタバの前にあるベンチでちょっと読み始めたらそのまま最後まで読み切ってしまった。夏の夜にぴったりで、とても幸せな気分になった。
とても有名な作品だが、やはり有名な作品というのは有名になるだけのことはある。

村上春樹ノルウェイの森

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

 
ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

 

もう1年半くらい積ん読していたけど文化祭が終わったあと読み始めた。本というのは時宜を得ないと読むことができないし、逆にそれまでは積ん読しといてもいいと思っている。
村上春樹全般に言えることだが、とてもすらすら読める。何が言いたいのかはよくわからないし、こんな登場人物に没入することもできないが、なぜか面白い。面白がれない人は村上春樹は読めないんだろう。それは誰のせいでもない。

アイザック・アシモフ「鋼鉄都市」

巨匠アシモフの言うまでもない名作。驚きだったのは、SFとしてだけではなくミステリとしてもとても面白かったこと。
舞台は階級制度の敷かれた管理社会ではあるがそこまでディストピア感は強くない。ロボットなんか出てきやしない1984年のほうが暗い。

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

我孫子武丸「殺戮にいたる病」

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

 

こういうトリックのミステリを読んだことがない人がいたら、ハサミ男を勧めていたんだけど、これからはこちらにするかもしれない。
ハサミ男のほうがわかりやすくはあるんだけど、こちらのほうが鮮烈な印象なのは殺害後の描写が影響しているんだろうか。どちらも面白いけど。
インターネットだとネタバレが多そうなのでハサミ男も殺戮にいたる病も興味を持っても調べないほうがいいと思う。

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

 

穂村弘「世界音痴」

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)

 

歌人穂村弘のエッセイ。短歌も好きだがエッセイがとても気に入っている。ああ、こんな感じの自堕落な、自分が可愛い人も会社できちんと勤めて、恋人を作ったりしているんだなと思い、少し安心する。散歩が好きとか、ずぼらだとか、自分と似た側面があるなと思う。たぶんここまでではないけど……
細々とした笑いどころが多くて、不機嫌なときに読んでもいい感じになれる。このあと「現実入門」「本当はちがうんだ日記」なども読んだ。

本当はちがうんだ日記 (集英社文庫)

本当はちがうんだ日記 (集英社文庫)

 

森博嗣黒猫の三角

黒猫の三角 (講談社文庫)

黒猫の三角 (講談社文庫)

 

森博嗣は非常に好きなのだが、S&Mシリーズといくつか単発や短いシリーズの小説(水柿君シリーズなど)、エッセイなどを読むに留めていた。犀川と萌絵以外のキャラクタに馴染める気がしなかったのかもしれない。
だがついにVシリーズに手を出し、一月で4作目くらいまで読んでしまった。Vシリーズのキャラクタも負けず劣らず魅力的だった。良かった。
森博嗣はトリック云々よりも実は文学的な魅力のほうが大きいのではないかと思っている。
森博嗣を読もうかと思っている人は「すべてがFになる」から刊行順に読むのがベストだと思う。すべてがFになるが肌に合わなかったら他もあまり合わないと思うので、彼の「ミステリィ」は読まなくていいかと。相田家のグッドバイ、喜嶋先生の静かな世界あたりは読めるかもしれない。

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

 

 

 

最果タヒ「死んでしまう系のぼくらに」

死んでしまう系のぼくらに

死んでしまう系のぼくらに

 

最果タヒの詩集。他の詩集もパラパラと読んだが、この詩集に収録されているものが一番好きだ。
最果タヒ全部そうかもしれないけれどこの詩集からは特に、21世紀の詩、という感じがする。「詩句ハック」とかやってるくらいだから、デジタルに強いんだろうけど、そういう匂いがする詩。
最近はじめてエッセイ集を出したらしいけれど、最初の方だけ読んだら詩とあまり変わらない文体で書かれていて個人的には肌に合わなかった。エッセイって個人の感情や思想がむき出しになっているようなものが好きだ。

中島義道「働くことがイヤな人のための本」

働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)

働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)

 

中島義道の本。ある意味私小説と呼べるかもしれない。
直球のタイトル、気の抜けたまえがきに惹かれて買ってしまった。基本的には公正世界仮説を否定していて、「人生の成功も失敗もどうにもならない部分がある」みたいな感じ。努力して能力があっても失敗する人もいるし、そうでなく成功する人もいる、それが人生、というような。
うちの学校には公正世界仮説の信奉者が多そうだし、こういう本をみんな読んだらいいんじゃないかなと思った。
最近なんだか頑張ることが疲れるので、id:phaさんの「持たない幸福論」とかこういう本にシンパシーを覚える。

フィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

 

先に「ブレードランナー」を見て、とても素敵な映画だったので原作は読まなくてもいいかなと思ったが、読んでおいてよかった。
ブレードランナーはこの小説からエッセンスを抜き出して構築しているだけで、あの独特の世界観は原作にはない。あのアジアンテイストはどちらかというとニューロマンサーに近いものを感じるけど……
原作はまた別の魅力的な世界観を提示していて、映画と違ってかなり人間味のあるデッカードの描写に親しみを覚えた。マーサーなどの道具立ても面白かった。

朝日新聞「カオスの深淵」取材班「民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた」

民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた

民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた

 

村長選挙を数十年間行わなかった村や、直接民主制を採用している州、海賊党など現代の民主政治を取り巻く様々な政治的な事例について、わかりやすくまとまっていた。
一見民主主義に反するような仕組みでも一概に否定するのではなくそのメリットを探っていこうという姿勢が感じられた。
「民主主義は死んだ」という言葉が繰り返される今だからこそ読みたい本かもしれない。

 

来年はもっとたくさん本を読もうと思った。文芸以外の、新書や専門書なんかももっと読んだほうがいいなと感じる。教養がない。
読書はただの趣味で、無理矢理読むものではないので、気が向いたら読もうかな、くらいだけど。